Inside the gate

米海軍横須賀基地でお仕事をしたいと思っている人達のためのサバイバルガイド。情報が古いということが玉に傷です。英語学習や異文化に関するエッセイも書いています。

寡黙なオフィサー その魅力の秘密

「横須賀基地で働いていると、ハンサムなアメリカ人に毎日会えますか?」と質問されたら、私の場合、答えはYes.です。接客業に就いていましたから、時間帯によって客層も変わり、幅広く網羅できました。毎日オフィスで同じスタッフと顔を合わせる事務職に就いていたら、Yesとは答えられなかったでしょう。

多くのアメリカ人男性を接客した中には、ものすごいイケメンもいましたが、若いイケメン10人が束になってもかなわないような、とても魅力的なオフィサーがいました。

An Officer and a (Little) Gentleman

ポーカーフェイス

年齢は40代半ばくらいと思われました。とにかくほとんど感情を表に出さないお客様でした。ご家族とディナーで来店されても、ランチ時間に同僚と来店されても、とても淡々とされていて、髪型はキメすぎずにほどよくslick。
とりたててハンサムではないのに、存在感がすごかったのです。私はハードディスクというニックネームがつくほど記憶力がよいので、お客様のお名前と顔はすぐに覚えて忘れないほうでしたが、ここまで印象に残るお客様というのは数えるほどしかいませんでした。

躾する姿すら優雅

印象に残った理由のひとつは、お子さんに対する躾の仕方
小さなお子さんが席を離れてきゃっきゃ騒ぎ出しても、席に着いたまま「こら、やめなさい」と声を出すだけで自分は食べ続ける親御さんが圧倒的に多かった中、このオフィサーは違ったのです。
すっと席を立ちあがったかと思うと、つかつかとお子さんのところまでいってお子さんの目線に合わせてしゃがみこんで、優しく肩をつかむのです。そしてお子さんにしか聞こえないように(周囲の邪魔にならないように)、何か言い聞かせているのです。そしてお子さんに話が伝わったことを確認すると、テーブルに連れて帰る。
その一連の動作に、ものすごい威厳と愛情が感じられたのです。しびれましたね。若くてイケメンの兵士では相手にならないほどの存在感の秘密はここなのでしょうか。

Our Journey

初めて交わした会話

米軍基地ですから、お客様とのやりとりは「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」だけではなく、スモールトークを心がけていました。
だけどこの魅力的なオフィサーが食事を終えてお会計の番になると、私が言えたのは"Did you enjoy your lunch/dinner?"だけでした。固まってしまって、それ以外出てこないんですよ。ですからこれらは会話としてカウントしないことにします。
初めてきちんと交わした会話は、自分でも驚くくらい自然に出てきた言葉がきっかけでした。その日は珍しくお子様と二人だけでディナーで来店されたのですが、オフィサーの私服姿を見るのは初めてでした。
色や素材がこのオフィサーの髪の毛の色や顔立ち、独特の雰囲気にぴったりのシャツを着ていたので、お会計の際に「お召しになっているシャツ、とてもよくお似合いです」と言ったら、ポーカーフェイスのこのオフィサーがかぁっっと真っ赤になったのです。
返ってきたのは「いや、古いシャツでねぇ。ありがとう」だけでした。

モデルがよいと洋服が映えるってこういうこと

横須賀基地の若い米兵達は、どこのブランドのものか見て一発でわかるものを着るしかありません。ほとんど皆エクスチェンジで買うからです。
でもこのオフィサーはどこのブランドのものかぱっと見ではわかりませんでしたが、目立たない部分に施された装飾でどのブランドのものかわかりました。
あれは絶対Made in Chinaじゃない。本家のMade in Englandだ。そう確信しました。だけど実際はどうなのかわからないし、なんせあのオフィサーがモデルですから洋服が魅力的に見えるんですよ。

この日を境に、来店される度に いろいろお話するようになりました。相変わらずポーカーフェイスではありましたが、慣れてくるとまっったく別人でした。

魅力の秘密

雑談が弾むようになってから、こんな話を聞いたことがあります。
「妻は社会復帰してキャリアもちゃんと築いているから、忙しいんだ。だから子供の宿題を見て、寝かしつけるのはここ2年僕の担当。仕事帰りにバーで一杯飲みたいなぁと思うこともあるけど、この役目があるからなかなか実現できずにいる。でも月に一度くらいは楽しみたいよね」

そういった時のオフィサーの表情を見ていると、

「パパがいなくても一人で宿題はできる」

「(携帯で)友達/恋人とやりとりしているんだから、部屋に入って来ないで!」
と言われる日が来るのも、そう遠い未来ではないことをわかっているかのようでした。

こうしてオフィサーが帰っていくと、私達が雑談する様子を少し離れてみていた男性サーバーが、私のところにやってきてこう言いました。

「マリアさん、俺、あの人の磁力の強さの秘密がわかりましたよ。哀愁っすよ!だから女の人、特にマリアさんくらいの年齢の人は惹かれるんですよ。若い女の子だったら、マッチョなイケメンの方がいいに決まってますから」

確かに「脳みそも筋肉でできています!」みたいなのは引くし、強いオーラの正体が哀愁というのは、この男性サーバーに言われて「そうだったのか!」と納得しました。

イケメン上司が気になるほどの存在感

ちなみにイケメン上司・ライアンが唯一くいついてきた対象がこのオフィサーでした。若い兵士が私のところに挨拶に立ち寄っても、"How many adimirers do you have?"と言ってからかうほど、まったく構わなかったライアン。
だけどこのオフィサーのことはものすごく気にしたのです。


「あの幹部の人は常連客なの?」

「君と彼はなんであんな風に話すようになったの?」

ライアンはオフィサーの奥様を持つ扶養家族という立場でした。ですから自分にはないもの=ランクや権力といった目に見えてはっきりとわかるものを持っている男性に対しては、色々感じるものがあったのでしょう。
自分は学歴も申し分ないわけだし、民間人の女性と結婚して一家の大黒柱になっていれば、こんな風に世界を妻についてまわることもなく、アメリカでキャリアを築けた。僕だって・・・僕だって・・・・。
だけど軍人と結婚して、奥さんについて回ると決めたのは自分なんですからね。そういう人生をどう生きるか、ということはライアンにしかコントロールできません。男性としてのエゴを現地の女性で満たそうとして、三行半をつきつけられたりしないように・・・・。

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