友人がフェイスブックで「泣かずに最後まで見ることができますか?」というメッセージとともに投稿した動画。私は「どうせお涙ちょうだいものの作り物でしょ」と思って泣かない自信がありましたから「最後まで見てやろうじゃない!」と思ってみ始めたら、意外なことに泣いてしまいました。
なぜなら・・・作り物じゃなくて本物のドラマだったのですから。
1992年バルセロナ五輪 陸上男子400mメダル候補に起きた悲劇
動画に登場するアスリートはDerek Redmondという英国代表の選手なのですが、この方を知らなかった私は、動画で軽く筋肉をほぐすような動きをしながらスタートの準備をするRedmond選手を見て「お見事なハムストリングスと臀部の筋肉だなあ。まさにスプリンター。黒人選手の筋繊維ってすごい。何を食べたらあんな風になるんだろう」などとのんきに考えていました。
ところがレースが始まり150mあたりのところまでくると、その上質なお肉の塊であるハムストリングスが肉離れを起こしたのです。もちろんRedmond選手は苦痛に顔をゆがめてその場に倒れこみました。
セキュリティを押しのけてトラックに入ってきた男性
遠のくライバル達の背中。用意が整った担架にも乗らず、肉離れを起こしていない足で地面を蹴って最後までレースを走りきることを決めたRedmond選手。その足で前に進むためには、肉離れを起こしている足の力にも、頼らなければなりませんでした。
当時Redmond選手は26歳でしたから、五輪という大舞台で金メダルを手に入れる最後のチャンスともいえました。だけど肉離れの瞬間、そのために捧げてきた四年間は水の泡となりました。
痛みと失意、どちらが大きかったのかはわかりませんが、そういったものと闘いながら立ち上がって走り続ける姿を見て、この強さこそ、アスリートとしての鍛錬の賜物だと思いました。
そんなRedmond選手に、セキュリティを押しのけてまで駆け寄って肩を貸した男性がいました。Redmond選手の父親です。
「もうやめてもいいんだよ」
「いや、やるんだ」
「なら一緒に走りきるぞ!」
息子の決意の強さを知った父親は「ならば共に最後まで」と一緒にゴールを目指しました。もちろん父親が力を貸したことで、Redmond選手は完走したとは認められず失格となりましたが、65000人の観衆はスタンディング・オベーションを送りました。
記録に残る人
記憶に残る人
オリンピックという勝負の舞台は悲喜こもごもですなぁ。