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Inside the gate

米海軍横須賀基地でお仕事をしたいと思っている人達のためのサバイバルガイド。情報が古いということが玉に傷です。英語学習や異文化に関するエッセイも書いています。

中朝国境に惹かれる理由

二晩でいっきに読んでしまった本。内容に引き込まれた理由は、自分の野次馬根性を見て見ぬふりができなくなったからでもあります。
私自身も含め、私の周囲には「どこでもドアがあったら行ってみたい場所」として中朝国境をあげる人が多いのですが、この一冊を読んでその理由がよくわかりました。

鴨緑江によって隔てられる二つの社会主義国

著者のヨンミさんが幼少時代の多くをすごした北朝鮮の恵山市は、中国との国境沿いにある町でした。鴨緑江の向こうの中国側からは、いつもおいしそうな料理の匂いが漂ってきて、それがとても羨ましかったそうです。
この川を挟んだコントラストに私や友人達は惹きつけられているのかなと思いましたが、それとは違うものに自分は惹きつけられているのだと読み進めていくうちに気がつきました。
国境沿いという環境から、恵山市には中国から様々なものが密輸されました。それを闇市場で売買して生計を立てている人が、この恵山市には大勢いたため、wikipediaによると平壌よりも生活水準は上ではないかということです。

恵山市 - Wikipedia


ただご両親が闇市場で得る収入はとても不安定でしたし、お父様がお母様の言うことを聞かずに、リスクの高いビジネスに手を出して逮捕された後は、ヨンミさん一家の生活は困窮を極めました。
飢えに苦しむようになり(それでもヨンミさん達は北朝鮮ではまだましな方)「パンを桶いっぱい食べてみたい」という願いもヨンミさんの心から消えて行きました。
食べる楽しみが考えられなくなるほど追い詰められて、もう食べること=生き延びていくこととしか考えられなかったからです。
そしてヨンミさんはある晩この鴨緑江を越えて中国に逃れる決意をします。

逃れた先の中国、亡命先の韓国に自由と幸せはあったのか?

中国に潜伏していた頃、生きていくためには当然お金を稼がなくてはなりませんでした。だけど警察に見つかったら北朝鮮に強制送還されてしまいますから、お金を稼ぐ方法は限られていました。どんな方法なのか、想像がつきますよね。
そしてそうやってお金を稼いだことを、いよいよモンゴル経由で韓国に亡命できるかもしれないというチャンスを与えてくれた青島の教会の韓国人牧師に「罪」と言われ、神に祈り赦しを請えといわれてしまうのです。
韓国に亡命できたらまっとうな人生を送るんだよ、とその牧師に言われたそうなのですが、それまでのヨンミさんの人生はまっとうではなかったのか?と考えてしまいました。多くの選択肢があるにも関わらず、それを選んだのならまだしも「生きるための選択」が一つしかなかったら・・・・それでも「まっとうに生きていない」ということになるのかなぁ。
詳細は省略しますが、著者は中国でも韓国でも心がずたずたになるような思いをします。だけど韓国に辿り着けてよかったね、と私は思います。

グーグルマップで北朝鮮を見てみたんだけど、ふりがな的なアルファベット表記がない

ヨンミさんが育ったところはどこらへんなのだろうと思い、早速恵山市をググってみたのですが、グーグルマップで見る北朝鮮は、韓国のようにはいかないんですよ。韓国ならハングル表記だけでなく、各都市名にアルファベット表記もついているのですが(私のPCはOSが英語なのでアルファベットですが、皆さんのPCは片仮名表記かな?)、北朝鮮はそれがないのです。
それはデータとして軽視されている=見放されている存在なのではなく、北朝鮮の外に情報が出てこないからなのだろうと思いました。

◆私のPCで見たグーグルマップ上の北朝鮮

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◆韓国

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中朝国境にアトラクションはない。だけど生への執着という本能にしか発するもののできない何かが人を惹きつける

私が中朝国境に惹かれる理由は、この鴨緑江を渡る人達の生への渇望なのだと思いました。比較的川幅が狭く浅いこの川が凍りつく真冬に、国境警備隊にいつ撃ち殺されるかもわからない状況の中、川を越えて行く北朝鮮の人々。そう、川の表面が凍りついていて走って渡れる極寒の時期こそが逃亡のチャンスなのです。
氷 が割れても死ぬし、国境警備隊に撃たれても死ぬ。だけど北朝鮮にこのままいたら死ぬ。そういう人達がもうどうしようもなくなって越えて行く川の周辺には、 生への執着が集まるのです。そういうものが醸し出す空気は、観光客を集めようとどんなに投資しても演出できないものです。
だからこそのこのこ観光客が興味本位で行ったら痛い目にあいそうだなと思いました。

「自由になるために性的な奴隷になるしかなかったら、再び性的奴隷になりますか?」と聞かれて「はい」と答えるヨンミさん。

ヨンミさんの出版、そして世界中のメディアの露出に対する北朝鮮の反撃が、そこらへんのコメディよりもずっと面白い!!!この悪あがき、すごいですよ。

生きるための選択 ―少女は13歳のとき、脱北することを決意して川を渡った

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