Inside the gate

米海軍横須賀基地でお仕事をしたいと思っている人達のためのサバイバルガイド。情報が古いということが玉に傷です。英語学習や異文化に関するエッセイも書いています。

英語ができても、山田詠美の世界は訳せない



ある日待ち合わせをしていて、山田詠美氏の新刊「賢者の愛」を読んで待っていた時のこと。
アメリカ人の友人が到着し、何を読んでいるのか聞いてきました。

ここから先ネタバレあります。購入を考えている方は閲覧をおすすめしません。

裕福な家に生まれた、真由子と百合という二人の女の子。
真由子は趣味のよい調度、そしてその調度を大切に使いながら優雅に暮らす大人に囲まれて育ちました。


「成金趣味、というのはそういう風にお金をかけられる人へのひがみでもある。だから成金と言ってはいけないけれど、どういうものが成金趣味と呼ばれるものなのか、理解はしておく必要があるよ」

そんな風に教えてくれる父親。

かたや成金趣味丸出しの、仰仰しい洋館風の豪邸に住む百合は、両親は完全に育児を放棄していてベビーシッターにまかせっきり。家の中のこともお手伝いさんを雇ってお願いしていました。だけどその人達は百合の家にはいつかなかったため、人の出入りが激しい家でした。

可哀相な百合。
だけど真由子の母や祖母は「なんかあの子いやだわ・・・」と言うのです。そして母と祖母の予感はあたりました。

真由子の父が自殺しました。
そして百合は、真由子が大切にしていたもう一人の男性を、昔からお得意の「ちょうだい、ちょうだい」という言葉とともに奪っていきました。
そして百合とその男性の間には男児が生まれますが、真由子はこの男児・直巳を利用して復讐することを決めたのです。

ここまで話すとアメリカ人の友人は「お金を払うから翻訳してくれない?ワード単位できちんと払うから、お願い。どうしても読んでみたい」と言いました。

「残念だけど、この著者の作品の素晴らしさは翻訳しきれないの。とても洗練されていて、哀しみを書かせたらこんなに美しく書ける人を、私は知らない」

直巳がクリュッグのボトルを開ける時の様子を見ながら、彼を極上の男の育て上げるために、自分が与えてきた教育は正しかったのだと確信する真由子。
山田詠美氏が作品の中で高級シャンペンや高級ワインの名前を出すと、ちっとも成金っぽくなくて、「大人の女のたしなみ」になるのですが、私はそのたしなみを翻訳しきれず、成金趣味以下になってしまいそうです。

http://www.flickr.com/photos/10817753@N03/11664923774

photo by Ulf Bodin


「あなたなら訳しきれる。あなたと普段英語で会話をしているからわかるの。お願い、翻訳して」

こんな時、彼女が日本語で山田詠美氏の作品を読めたらな、と思うのです。そしたら私の言っている意味がわかるから。



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