Inside the gate

米海軍横須賀基地でお仕事をしたいと思っている人達のためのサバイバルガイド。情報が古いということが玉に傷です。英語学習や異文化に関するエッセイも書いています。

憎しみと悲しみを抱えて生きる人達


「ホテル・ルワンダ」という映画を見ていて、こんなシーンがあったのを覚えています。
国連から派遣されていた軍の大佐か、それとも以前植民地としてルワンダを支配していたベルギー人の大佐かは忘れてしまいましたが、こういったのです。

「ルワンダは救う価値がない」

ダイヤモンドといった地下資源が豊富なコンゴ(旧ザイール)ならば、支援するふりをして多くの国々が介入してきたかもしれません。だけどルワンダには資源に恵まれていたわけではなく「生きる喜びと太陽のある国」でした。



アフリカの中でも近代的な国家で、経済も模範的だとされていたルワンダですが、その国ではツチ族であるというだけで、生きる喜びを絶たれる日が来てしまったのです。

なぜ著者は虐殺を逃れることができたのか



タイトルは「山刀で切り裂かれて」となっていますが、著者は切り裂かれずに済みました。想像しがたい恐怖にさらされた絶体絶命の場面で、機転をきかせることができたからです。あの場面で、あれだけの機転がきく人間・・・しかも当時著者はまだ子供でした。私はこのシーンが「ホテル・ルワンダ」の支配人のあの脇汗をびっしょりとかいたであろう、フツ族との巧みな交渉シーンの参考になったのではないかな、と思いました。
この本を読んでまず感じたことが、フランスやベルギーがこの国でやったことを考えると、先進国という言葉がしっくりこなくなるということです。あくまでも経済力だけを考えれば違和感のない言葉なのですが、実は貧困やら虐殺はこの先進国と呼ばれる国々が原因を作っていると思うと、なんともいえない気持ちになるのです。「国力ってなんだろう」と。

虐殺が始まるまでの不気味な恐怖

そのルワンダで虐殺が起こったのが1994年。「ルワンダ大虐殺 〜世界で一番悲しい光景を見た青年の手記〜」はその惨状が事細かに書かれていました。

著者のレヴェリアン・ルラングァ氏が見た「世界で一番悲しい光景」の一部は、自分の大切な家族が全員フツ族に切り刻まれ、いままさに息絶えようとしている大切な母親を見下ろして、フツ族の女性が「その女のスカートが(血で)汚れないように殺しなさいよ」と言った光景です。これはまさにほんの一部でしかなく、悲しい光景は続きます。
対する「山刀で切り裂かれて ルワンダ大虐殺で地獄を見た少女の告白」は、虐殺の惨状のみではなく、ルワンダがまだ平和で幸せだった日々から書き始められているため、虐殺が本格化するのを目の前にルワンダを逃げ出そうとするツチ族の、血が凍りつくような恐怖や焦りがよりはっきりと浮き彫りになるのです。

肉体が受けた痛みが癒えても、人や神を信じられなくなる苦しみは癒えない

虐殺が勢いを増す中、自分達を見捨てて逃げた教会の司教、あるいは自分達に山刀(マチェーテ)で襲い掛かってきた司教。ルワンダを逃れて辿り着いた先のフランスで修道女達に言われた心ない言葉。家族、友人、家を失い命からがら逃げてきた先で自分達を受け入れた家庭の養父(牧師・・・)による性的虐待。政府からの助成金目当てに孤児を受け入れる養母。

そして数年ぶりに帰国したルワンダで著者の女性を待っていたのは、なんと著者の母親が殺された場所のすぐ隣での夕食会。
母親から流れ出た血を長い時間かけてふきとって部屋を元通りにするように命じられた、あの場所のすぐ隣で「さあ食べましょう」という人達の神経を疑いましたが、きっとその人達は著者の母親がそこで殺されたことすら覚えていないのです。このような無神経な扱いに、著者は怒りに震えながらも耐えましたが、聖職者を含む人間に対する不信は、著者の心をマチェーテとは違った形で傷つけたでしょう。

ルワンダのその後

「どうしたら人を憎みながら生きていけるか、なのだ。私は憎しみを葬るつもりはない。憎しみを抱えて生き、しかし、その上に幸せをいっぱい重ねていくつもりでいる。憎しみを葬ってしまったら、人々の死をよしとし、あの人達は今いるべき場所にいるのだとなっとくすることになってしまう気がする。違うだろうか」
「山刀で切り裂かれて ルワンダ大虐殺で地獄を見た少女の告白」より引用


著者はこのような思いを抱えているのに、帰国してみると感じずにはいられなかったのが、平和を取り戻したルワンダに暮らす人々と著者の気持ちの間に横たわる温度差でした。人々、特に死刑執行人であったフツ族達は何事もなかったかのように暮らしています。
だけど著者の中でけりをつけなければいけないことはありました。それは自分達を見捨てた裏切り者への制裁です。制裁を下された裏切り者達は、法に裁かれることはありませんでしたが、著者の言葉を一生忘れることはないでしょう。

山刀で切り裂かれて ルワンダ大虐殺で地獄を見た少女の告白

在ルワンダ日本国大使館

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