Inside the gate

米海軍横須賀基地でお仕事をしたいと思っている人達のためのサバイバルガイド。情報が古いということが玉に傷です。英語学習や異文化に関するエッセイも書いています。

シリアで殺害されたイラク人フリーカメラマンが遺したもの


「メッセンジャーは殺害されたけれど、メッセージは生き残った。そしてその貴重なハードディスクはシリアの外へとうまく持ち出された」

そのうまく持ち出されたメッセージこそが、下の動画。

イラク人フリージャーナリストのヤッセル・ファイサル氏の遺作となったドキュメンタリーで、シリアの反政府勢力達の素顔を垣間見ることができます。
戦っていない時は革命の歌を歌ったりサッカーしたりしています。コーヒーも出してくれる。ジハードに向かう前に歌を歌って士気を高める様子なんかも見ることができて、これは本当にファイサル氏のように、フィクサー経由で彼らに近づいた人にしか撮れないものでした。

この戦士達が政府を倒した暁に国家を作り上げたとして、シリアに平和と笑顔が戻ってくるかどうかと問われると、私の答えはノーです。

「神の定めた法律を全ての国民に対して実施して、イスラム国家を作りたい」

それがファイサル氏の取材した反政府勢力の目標なのですが、神の定めた法律の「神」が意味するものが、本当のアラーの教えなのか、それとも自分達に都合よく勝手に解釈したアラーの教えなのか・・・・。イスラムの本来の教えは歪められてはいないでしょうか。
ファイサル氏は、反政府勢力にあまりにも近づきすぎてしまったのでしょうか。

現在シリアにはFSA(自由シリア軍)を筆頭に、この動画に出てくるだけでも5つの反政府勢力があり、やはりその中でもISILは国民に恐れられているそうです。
動画にはISILが検問しているシーンが出てくるのですが(ISILの標識まであるのですよ)、「おまえは何の権利があってそんなことをしているんだ」と言いたくなる光景でした。
だけど政府が機能しておらず(アサド夫妻はどこへ逃げた?)無秩序になってしまったシリアでは、だけど誰も逆らえない・・・。あいつらはそういう存在なのです。
動画を見ていて感じたのは、シリアでは誰が敵で誰が味方なのかわからないということです。

ファイサル氏が取材したのは、A-Tawhid Brigadeという反政府勢力のグループで、違う派閥(グループ)の戦士達と助け合うこともあるような、比較的まともな人間達によって結成された反政府勢力のようです、といいたいところですが、どうもあやしい・・・。
なぜならファイサル氏がAl-Tawhid Brigadeの取材を終えて、ヌスラ戦線(アルカイダ系。潤沢な資金を持ち、きちんと戦士として訓練されている軍団)のトップとのインタビューに車で向かう途中、何者かによって殺害されたのです。

しかもその車に同乗していたシリア人フィクサーのJomah Alqasem氏(動画で話している眼鏡をかけている若い男性)、ヌスラ戦線の運転手、そしてもう一人のヌスラ側の人間は無事で、撃ち殺されたのはファイサル氏だけ。しかも2,30発被弾しているんですよ。
何者かによってファイサル氏がヌスラ戦線のトップのもとへと向かうことが密告されていたのです。彼を売ったのは誰なのか。そして誰がファイサル氏を撃ったのか、いまだにわかりませんが、撃った者達は英語でやりとりしていたそうです。

www.youcaring.com

このドキュメンタリーを撮り終えたら、家族みんなで平和な場所で暮らそうと、アラブ首長国連邦の首都・アブダビでの生活を夢見ていたファイサル氏ですが、その夢はかないませんでした。
上に埋め込んだサイトはファイサル氏のご遺族への支援サイト。ご遺族のために集まったのは、$30,000が目標のところ、$24,362。これはファイサル氏の命の対価ではありません。人々の善意です。(募金の受付は終了しています)

この動画で何度もアレッポが出てくるのですが、アレッポといえば「オリエント急行殺人事件」の年代の私としては、あの街が破壊されてしまったのは残念でなりません。そして・・・・今のシリアを甘く見てはいけない。本当に恐ろしい。

フィクサーのAlqasem氏がファイサル氏にこう言ったことがあるそうです。

「(君が命がけで撮影しても)カメラマンが手に入れることができるのは、よくて画像・動画のクレジットに名前が表示されるくらいで、人々は気がつかないようなものだ」

そしてファイサル氏はそれに対してこう返しました。

「僕らはカメラマン。カメラマンは名もなき戦士だ」

かつて自分も紛争難民として苦しい日々を過ごしたからこそ、ファイサル氏には伝えたかったストーリーがあったのでしょう。多くのメディアはISILの残忍性を伝えはしても、難民達が強いられている生活や、彼らを受け入れている国々の様子は伝えてくれないから。

RIP Yasser Faisal.

Remembering Yasser Faisal (facebook)

「シリアで見たあの子達、どうしているかな」 - Inside the gate

 Syria:The Last Assignment | The unseen story of Syrian rebels http://aje.io/cwjn