Inside the gate

米海軍横須賀基地でお仕事をしたいと思っている人達のためのサバイバルガイド。情報が古いということが玉に傷です。英語学習や異文化に関するエッセイも書いています。

減点方式の日本企業で働いていた時のことを書きます


どんなに完璧に仕事をこなしても

「あ、でもここが・・・・よく見るともっとこうできるよね」
「日付印の位置をもう1cm下にしてください」

などと何かしらいちゃもんをつけないと気が済まない人々のもとで働いていたことがあります。当時はこの「何かしら言わなくてはいけない」のが彼らの仕事だとわかっていても、なぜこの人達は人の心を折ったり見せしめのようなことばかりするのか不思議で仕方がありませんでした。

 

重箱の隅を楊枝でほじくるのが親会社の社員の仕事

私がベースで働きだす前の直近の職歴というのが、That's 日系企業!としか表現できない会社での事務職でした。それこそ企業名を出すと半官半民みたいな企業だからぬるま湯で楽でしょう?と思われがちなのですが、とんでもありません。
確かにブラック企業とは程遠く、福利厚生はきちんとしていました。働いた分だけしっかりもらい、有給休暇もばっちりとれます。だけどそれはあたりまえであるべきであって、「だからこの企業は素晴らしい!」というつもりはありません。
この企業は減点方式でしか子会社のパフォーマンスを評価しないため、どんなにきちんと仕事をしても必ず何かしらダメだしをしてくるのです。ですから監査のたびに「今回の生贄は誰かな・・・・」と皆で言っていました。
処理が的確、迅速になされていても「よくやっているね」という前向きな評価は一切されることがなく、粗探しをして徹底的な減点方式で評価するのです。私達子会社の人間の気持ちを引き締めるための減点方式だと思いますが、それにしてもねちねちと姑のように・・・・。だけど彼らは何かしら見つけて減点をしなくてはいけません。なぜならそれが彼らの仕事だからです。「今月は素晴らしいじゃないですか!」と言って評価を終えたら彼らは仕事をしていないと思われてしまうのです。

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私は関連会社の社員として、他の社員達と数人で親会社に出向するという形で勤務をしていました。その関連会社の上司も社長も、親会社からの天下りの人間です。バブル時代においしい思いをしたうえ、親会社を定年退職後はこうやって関連会社の幹部として、置物のように座っているだけでお金をもらえる人達。
私達関連会社が翌年も同じように業務を受託できるかどうかは、私達の業績次第でした。ただ業績といっても親会社の事務を請け負っているわけです。外部の客に商品や技術を売っているわけではありませんから、私達のとってのお客様とは、親会社でした。ということは、毎年受託できるのはほぼ確定。身内に任せておけば楽ですし関連会社の方が管理するのが楽ですもの。なのに親会社は私達を厳しく評価しました。

親会社の社員達による月一のがさ入れ

同じフロアにいる親会社の社員達がある日何の予告もなしに、私達が使っているキャビネットの中の書類を一通り見て、業務が正しく行われているのかチェックするがさ入れが月に一度ありました。

こういう場合はこの表記を用いて、こことここに処理印、そして日付印・・・という風に。もうキャビネットの中にある書類全部ほじくりかえして重箱の隅つつきみたいなことをするのです。(嬉々としてねw)
書類に書き込まれる表記は、処理をする人間の間で意味が通じればOKなのではなく、必ず事例ごとに決まった表記を使っていなければいけませんし(それに関しては、いらっとするくらい細かい規則があった)、日付印や処理員が一つでも欠けていれば減点です。そしてその印を押していなかった人はどうするのかというと、どうして押印し忘れたのかを書面で報告しなければなりません。小学生かよーーーーーーーー。

凡ミスのために欠かされる始末書だけど、書くことがなくて困る

そんなの人間ですから誰だって押印漏れはあります。そして報告時、私はあえて「うっかりしていました」と一行だけ書いてリーダーに提出しました。
すると私の隣の席だったリーダーはこっそりとこういうのです。

「ねえ、阿部さん、気持ちはわかるよ。押印漏れの理由にうっかり以外なんて考えられないもんね。だけどそこをさ、もうちょっとこう・・・・なんかストーリーをつけて書いてくんない?さすがに一行であっさりと片付けられると反省の色が見えないからさ」

一行で済む上ストーリーなんてつけようもない内容にどうやって作り話をしろってんだと頭を悩ませました。そしてだんだん馬鹿馬鹿しくなってきて、どうせだから50行くらい言い訳書いて提出してやれ、というところに行き着くのです。どうせ何をやったってネガティブフィードバックしかくれない親会社の連中が読むんだから、やつらがうんざりするようなものを書こうというわけです。うっしっしっし!!!!!!小説風にしてやる!!!!!!!
そしてレポートを提出した後は、チームで再発防止のミーティング。いい大人が集まって「どうすれば日付印をうっかり押し忘れることを防げるのか」ということに関し、頭を突き合わせて30分以上費やすのです。頭の中にある「機械じゃあるまいし、そりゃ忘れることもあるよな。人間ですもの」という答えが口から出ないよう、飲み込みながら・・・。
では印漏れを含め、ミスが一つもなく、すべての処理が適切に行われ、書類の保管状態もきちんとしていたら?そういう場合、親会社は何かしら取り上げて指摘をしてきます。減点対象がないなんてことはありません。必ず何かとりあげていじる。減点することが彼らの仕事だからです。

親会社による慰労会がケチ臭すぎて笑える

減点方式で毎月評価し、会計年度末に総合評価を出して、来年度も業務を私達関連会社に委託するかどうか決定するわけですが(身内だからほぼ決定なんだけどね)、委託が決まった場合「今年一年頑張ってくれたね。ありがとう!」という感謝の意を込めて、子会社から出向して来ている私達のために、親会社が開いてくれた慰労会がありました。
この慰労会が本当に素晴らしくて、

  • 会場は会社の近くにある広いだけがとりえの食事も酒もまずい中華料理屋
  • 慰労会といいつつ子会社の社員達も参加費は自腹
  • 宴とは程遠く、結局親会社の人間を接待させられる

でした。
私はもう今年一年十分頑張った。しっかり仕事はしたから、時間外にお金を払ってまであいつらの相手はしたくない。そういう理由で慰労会はパスしたかったのですが、上司がそれを許しませんでした。そういうわけで私は薄い緑茶ハイを5分で飲んで「顔出したから、もう帰っていいですよね?」と言って逃げ出しました。参加費3500円ですから、一杯3500円の緑茶ハイですよ・・・。

ベースで働くようになって感じたこと

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ベースで接客業に就くようになってからは、相変わらず福利厚生はしっかりしていましたが、接客業でしたから土日休みなどなかなかとれませんでしたし、インターナショナルな環境で働くこと特有のストレスもありました(関連記事:若い黒人女性客に対する苦手意識がふっきれたきっかけ - Inside the gate)。
だけどそのストレスはこの日系企業で働いていた頃のものに比べると、100倍マシでした。あの企業で働いていた時のような、思わずため息が出てしまう(そしてそれを親会社の社員に聞かれる)馬鹿馬鹿しさからくるストレスは、受け入れがたいものでした。
私、ずっとこんな馬鹿馬鹿しいことやり続けるのかなっていう虚しさは、ベースにはなかった。だから楽園とは呼べなくても、土日休みがとれなくても、ホームだと感じたのでしょう。

関連記事:通勤地獄から抜け出してから見えてきたもの - Inside the gate