日本社会での長い社会人生活から逃れて、「日本の中のアメリカ」と呼ばれる横須賀基地(実際に働いてみるとコマンドによっては日本の中のフィリピンです。これは本当よ。公用語タガログ語だよね?って思うところがある)で働くようになって変わったことはいくつかあるけれど、最も変わったことは目覚めると心が軽く、朝焼けが美しく見えるということです。
(朝5時頃撮影しました。私のiPhoneでは写しきれないけど、東京湾には既に多くの船が帆走しており、猿島の向こうには君津の製鐵所が見えます。夜は夜で工場地帯に灯りがともってまた綺麗です)
日本の一般企業に通っていた頃
この朝焼けを美しいと一瞬だけ思っても、心から楽しむ余裕はありませんでした。
社会人が抱えるありとあらゆる種の負のエネルギーに満たされた通勤電車に1時間揺られて、脳が学習・記憶することを拒否しているのが自分でもわかるほど、自分にはまったく向いていない業種の仕事に向かうということを思うと、心が重くなり食欲もわかない。当然朝日に染まる東京湾を眼前に~とかそういう気持ちにならないのです。むしろこの光景を見ると一日の始まりをつきつけられているようで嫌でした。
職場には仲の良い同僚達もいましたが、私の中にはどこか自分が変人というか異端という自覚がありました。
彼女達と仲良くするために器用に振舞える自分のその器用さがたまに寒々しく感じたり、そう感じても「お金をいただくということはこういうこと」「皆がそこそこ幸せそうに働いている大企業で、つまらないとか息苦しいとか感じる自分は少数派。多数派に合わせてうまくやっていかなくちゃ」と自分に言い聞かせ、日本社会という枠の中にきちんとおさまるように自分を調節する。その繰り返し。この調節機能がどんどん発達していくにつれて、自分が持っている大切なものがどんどん劣化して錆びついていくようで怖くなりました。
だけど以前からその存在は気になっていた「日本の中の異国」で働くという選択肢が現実的に考えられるようになってきたある日、「もう十分だろう」と思いあっさり退職届を出しました。
大企業で働いてみて思ったこと。結局差し引きゼロだった - Inside the gate
「日本の企業で働くのはきっとこれが最後だろう」
そう思いました。数年後に日系企業に戻ろうと思っても年齢的に厳しいだろうから、もう退路はありません。通勤地獄ともお別れ。わけのわからない不文律ともここでお別れ。
日本の中のアメリカで働いてみて気がついたこと
これは私だけかもしれませんが、仕事に行くのが嫌だなぁと思ったことが一日もありませんでした。寝ていたいなぁと思ったことはあったけど、仕事が嫌とは思わなかったのです。もちろん嫌なことはたくさんあったけど、I always felt rewarded. 努力は報われていたし、英語が話せないと仕事にならない環境に身を置けて、毎日が実りあるものでした。
自分が好きで且つ得意なことを仕事にして、それを評価してもらえるということは、努力がちっとも苦にならないというか、努力しているという感覚すらないことに自分でも驚きました。
だからこそ朝日が東京湾や船を照らし、対岸の工場地帯がぼんやりと見える光景を楽しむ余裕が生まれました。通勤電車に乗らなくていいというだけでこんなに朝がゆったりとできるのか、と実感したのです。
そしてベースで働くようになって、日本社会を外側から見ることもできました。
例えば日本はありとあらゆる書類の処理が早くて適格。そして痒いところに手が届く感じ。サービスとしてきちんと仕事が行われているのです。これは本当に感心しました。アメリカ人は「あ、ごめん。君の応募書類なくしちゃった」「誤ってシュレッダーしちゃった」とかざらですからね。
>>【横須賀基地】 アメリカ人達が皮肉で"Amazing HRO"と呼ぶほど審査に時間がかかる理由 - Inside the gate
それからベースの中では、長年ともに働いている従業員であれ、基本的に他人を信用しないことを前提として規則が決められていました。日系企業ではなれ合いのようになっていたり、「まさかあの人がそんなことをするわけない」と信用して若干甘くなっているような部分でも徹底されていました。
「アメリカ人は人を信用しないのだな」と思ったけど、なぜ信用しないのかそれを身をもって知ったことも勉強になりました。見るからに怪しい人や、できる限り働きたくないという粗大ごみみたいな人でもアメリカ政府に守られて働いているのです。だけどトランプ氏が大統領になってからはHiring freezeもあったくらいだし(現在は解除済み)、今後はどうなるかわかりませんね。とにかく日本人は平均的に見て善良な人が多いのに対し(だから信用できるというのもある)、アメリカはものすごくよい人・できる人と救いようのない人の差が大きいのです。両極端。アメリカの田舎に行くと今でも貧しい白人家庭では近親相姦(父親による性的虐待)が行われているとか、ああなんかそういうのわかるわ、とそういうアメリカの闇の部分が見えてきます。
最後に勤めた日系企業を辞めることを同僚に話した時、その同僚が仕事を紹介するよと申し出てくれました。その同僚は義理のお父様が官僚だったため、好待遇の仕事を紹介してくれました。もしもその仕事のオファーを受けていたら、ベースの従業員として稼げる月給の2.5倍いただけたでしょう。
それを丁重に断ってまで働き始めたベースでしたが、私の選択は間違えていなかったと今でも思います。
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