Inside the gate

米海軍横須賀基地でお仕事をしたいと思っている人達のためのサバイバルガイド。情報が古いということが玉に傷です。英語学習や異文化に関するエッセイも書いています。

横須賀基地でのクリスマスの思い出

あれはクリスマスを翌週に控えたある日のことでした。
コントラクターと思われる中年アメリカ人男性が来店し、視線をあげてメニューをゆっくりと眺めていました。そしてあるものに目をとめると、はっと一瞬息をのみました。
「何か気になるアイテムでもありますか?」

当時店員だった私がそう聞くと、その男性はその「あるもの」に視線を奪われたままこう答えました。
「いや・・・あの・・・そこに飾ってあるクリスマスのデコレーション、まったく同じものを家でも飾っていたんだ。僕が幼い時だよ」

そのデコレーションはこれといって高価でも豪華なものでもない、素朴な木製のものでした。確かこういう感じだったと思います。

wooden tree decoration

そのデコレーションを見ている男性はすっかり童心に帰っていました。そして、しん、と静まり返った店内で、もしかしたら泣き出すのではないかと思うような表情でデコレーションを見つめる男性の周りに、ふと何か感じました。その時店内には私と彼しかいないはずでしたが、確かに他のスピリットも感じたのです。
この時のおじさんの表情があまりにも可愛らしくて、ノーマン・ロックウェルも描けないだろうと思いました。ようやく我に返ったこの男性に「よい一日になりそうですね」というと「ああ、いい思い出だ」といい照れ臭そうに笑っていました。
この時店内、というか彼が立っていた場所に漂っていた”気”みたいなものは、いまだに覚えています。神聖とかいうのではなく、とにかく温かかった。
都心で働いていた頃は、毎日満員電車に揺られ、職場の最寄り駅にようやくたどり着く頃にはもう疲れ果てていて、毎日殺伐としていました。横須賀基地で働くようになり、月給は半分近くに下がりましたが、このように切り取って絵画にしてフレームに入れてしまいたい「瞬間」「情景」との遭遇はぐっと増えました。
安月給という時点で横須賀基地での勤務という選択肢は、多くの人にとっては真っ先に消去されるものでしょう。心に残る、心を奪われるような瞬間や情景のコレクションだけでは、食べていけません。お金は現実問題です。私が悠長なことを言っていられたのは、夫の収入をあてにしていられる立場だったからです。
話が脱線してしまいましたが、皆様、Merry Christmas.

こういう人達を見ると日本人村の村民なのかなと思う

先日ベースのメインゲートである光景を見て、「この人達は日本人村の村民かもな」と思うことがありました。「日本の中のアメリカ」であるはずの米軍基地の中の濃厚な日本人村というトラップ。

My hanko



どんな光景だったかというと、外から歩いてきた二人の女性が憲兵のところまできて、ゲートを通過してベースに入るためにIDを見せようとしていたところ、自転車を引いた日本人男性従業員達の団体が、反対方向からやってきました。ちょうど帰宅ラッシュの時間帯だったのでしょう。
そしてその日本人男性達は自転車を引く速度を落とすことなく次々にゲートを通り過ぎて行きました。通り過ぎる際に自転車が柵の一部に引っかかってしまわぬよう、すっと持ち上げて皆さん出ていくのです。女性達がベースに入れるよう譲ってあげようとする人が一人もいないことに驚きました。
電車をはじめとする公共のスペースでは、大抵出よう/降りようとしている人達を優先的に進ませるのがマナーではありますし、自分が譲ってしまったばかりに後ろが詰まってしまうかもしれない、と気にかけていたのかもしれません。
だけど私はあまりにも当たり前のように日本人男性達がどんどん自転車を引いていく姿を見て複雑な気持ちになりました。これがアメリカ人男性やフィリピン人男性なら「どうぞ」と譲ってくれるか、あるいは譲ってくれるジェスチャーはなくとも、一旦止まってベースに入ろうとしている女性側の様子をうかがってくれます。ベースに入っているのが女性でなく、男性だったとしても譲り合いの気持ちのようなものを見せてくれます。
だけどこの日本人男性従業員達の団体には、そういう人が残念ながら一人もいませんでした。この様子を見ていた私は「この人達、日本人村の人達なのかなぁ」と思いました。

16時近くにメインゲートを通過して退勤できるコマンドってどこよ。相当早い時間から働いている人達でしょうね。でもあんなに早く退勤しているということは、どこぞのコマンドのように生活残業しなくて済むコマンドに所属している人達でしょう。そしてエレベーターのドアが開いたら我が先にと降りていくであろう人種。日常生活では夫に、そして基地に入れば女性であるというだけでアメリカ人男性やフィリピン人男性に、あたりまえのように何でも先に譲ってもらえることに慣れ過ぎてしまっている自分の方がずれているのかもしれません。

事務職・技術職(MLC)は安月給ながらも安定はしていますが、こういう人達とともに働くことになるんですよね。日本人村で過ごす8時間/日。仕事と割り切ればなんてことないのですが、私が働いていた職場は仕事はハードながらも笑いに絶えない職場で、それがどれほどありがたく、恵まれた環境だったのか今になってしみじみと実感しています。

会社でやってる? 印鑑の押し方マナー - 動画 - Yahoo!映像トピックス


ベースで働くとこういうことからも解放されるんだろうな、と思って入ってきたら、確かに捺印する機会はもうないにせよ、精神文化は引き継がれてしまっているため意味なし。
(印鑑、といえばピザを配達してくれた男の子を見て大急ぎで印鑑を取りに行った、今は亡き祖母をふと思い出しました)

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バイリンガルあるある


日本語しか話さない日本人の友人と話していると、こんな場面に遭遇します。

1.彼、彼女という代名詞を使うと話がこんがらがる

このツイートの彼はHeです。だから彼=He=面食いで知られている仲間 なんですね。だけど日本語しか話さない人と話していると「え?マリアさんの旦那さんのお母さんが美人ってこと?」って言われる。彼=ボーイフレンド、夫になっちゃう。
だからこういう誤解を避けるために、例えば発音を彼じゃなくて彼氏⤴、彼女なら彼女⤴」にすることもできるわけだけど、そういう日本語が苦手なんです。昭和生まれですから・・・。

【追記】代名詞のことで反応があったので、以下にフォルダから見つけ出したスクリーンショットを貼ります。安藤美姫さんに関するウェブニュースについたコメントか何かだったと思いますが、いつかこのバイリンガルあるあるで書こうと思って保存していたのを忘れていました。

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この「彼」なんですけど、多分ミキティーはHeという意味で使っていますよね。私はそう思いましたが、チャリキチさんにしてみれば彼=ボーイフレンドと受け止めたのかなと思いました。っていうか彼って言っただけでここまで言われなくちゃいけないと思うと、有名人って大変なのね。

英語のオリジナルの発音に限りなく忠実なカタカナ表記になぜかイラっとくる

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日本人相手でも、ついその単語本来のストレス(強く発音する部分)を置く場所を忠実に守ってしまい、その結果訂正あるいはバカにされてイラッとくる

多くの英単語が日本ではおかしな読み方で広まります。ストレスを置く場所が変えられちゃうんですよ。例えばsexless(セックスレス)。日本人ってセックスレスっていうじゃないですか。なぜそこにストレスを置くのかなと不思議になるのですが、まあメジャーなTV局のアナウンサーがそう発音しているのだから、単語が日本に入ってきた時点で日本人の耳になじみやすい発音に変えられてしまうのでしょう。
次のケースはマーク・ジェイコブス。

もうオチはわかったでしょう。デザインした商品だけでなく本人の美形っぷりも有名な彼ですが、彼の名前=ブランド名も日本では珍妙な読み方で広まりました。

Marc Jacobs @ SXSW 2017

彼の名前の正しい発音どおりにマーク・ジェイコブスと発音すると、日本語しか話さない人には「マリアさん、なまってる(笑)」と言われ、マーク・ジェイブスと訂正されます。
念のために言っておきますが、私はかぶれているわけではないため、日本語しか話さない人相手には普通に日本語風に英語を読みますよ。でも日本国内で通用する・広まっている読み方がわからない単語が結構あるのです。あまりTVを見ないので、そこらへんのアップデートが追い付いていないんですね。
ですからおどおどしながら英語のオリジナルに近い形で発音すると「なまってる」と突っ込まれるのですが、もういちいち説明する気にもなりません。

関連記事:外国人にとって紛らわしい日本語 - Inside the gate

 

横須賀中央ふらつ記(22)どぶ板に新しいお店ができました

ケバブ屋・アリババの店主が珍しくきちんとクックコート(しかもエジプトの国旗が刺繍されているもの)を着て店の前でにこにこしていたので、「何かのお祝いですか?」と聞いたら「今日はレーガンが帰ってきたんだ!」という返事がきました。

ああ、そういえばそうだわと思いだしつつ、帰ってくることができない人達もいるのだと改めて思いました。

今年の第七艦隊は、いったいどうしてしまったのでしょうか・・・。

ヨコリシャスの近況

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12月8日現在、在日米軍将兵の飲酒がベース内だけに限られているため、まだまだ閑散とした夜が続くどぶ板通りですが、アリババやヨコリシャスのように食べ物を提供するお店は売上に影響はなさそうですし、門限が01時から24時に繰り上がったことで、midnight snack(夜食)を買い求める米兵達でセブンイレブンがごった返す時間帯も、比例して早まっていることでしょう。
で、前からこれは気になっていたのですが、ヨコリシャスが通行人の目に留まるところに飾っている店長と舞の海さんのツーショット。

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私は基本的に有名人の画像やサインをこれみよがしに飾っている飲食店はスルーするので、ヨコリシャスもブリトー買って以来もう行っていません。例えば赤坂の韓国料理街で「〇〇(大人気の韓流スター)が来日するたびに訪れる店!」と派手に宣伝されていたら、引いてしまうのです。
といいつつ、こんな記事を書いていたらまたブリトー食べたくなってきました。

insidethegate.hatenablog.com

続きまして横須賀基地メインゲートを出て陸橋を越えてすぐのところにある老舗ダイナーハニービー

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外から覗いてみたら、なんと稲葉浩志さんをちょっと悪そうにした感じのイケメン調理師がいました。今度入って食べてみようという気になりました。タコスいってみよっか。

どぶ板に新しくできたお店

Grill&Cafe Alfredというお店です。この画像ではわかりにくいのですが、奥行きがあってブース席が並んでおり、もちろんカウンターもあります。

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どぶ板は「とにかく飲んで酔っ払いたい」という米兵のためのバーが多いのですが、このお店は外から見てみた感じだと、小綺麗なダイナーという雰囲気。どぶ板を散策して小腹が空いたら立ち寄るのにちょうどいいかもしれませんね。実際に入ってみたらまたレポートします。場所はBuffaloやGeorge'sがある通りです。

BuffaloやGeorge's関連記事:【どぶ板】バーによって集まる人種が違います - Inside the gate

その他

そういえば今日イオンで瀬川瑛子さんのミニライブがあるらしい。

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命くれない。あげない。明石家さんまさんが散々使い古したネタです。失礼いたしました。生瑛子にちょっと興味がある私ですが、仕事だから行けません。

 

愛され続けて50年の喫茶店へ行ってきた

そこには演出された昭和ではなく、本物の昭和の姿を見ることができました。

 

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行ってきたのは米が浜にあるテネシー。この記事を読んでから行ってみたいと思っていたのです。

まず驚いたのがゲームテーブル(テーブルゲーム?)が置いてあるの!テーブルにゲームが内蔵されているんだけど、わかりますかね。そしてあの懐かしの単純なインベーダーゲームのぴよーんぴよーんぴゅーんという音が聞こえてくるんだけど、それを楽しんでいるのが、おそらく青春時代もこのテーブルにお世話になったであろう年配の客達でした。

店内の雰囲気。

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もう営業を続けて50年になるそうですが、チェーン店がどんどん進出してくる中、昔のまま変わらずにいることがどれだけ難しいことか、想像もつきません。

私が座った席からは掃除用具一式見えました(苦笑)。今度は他の席に座ります。

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BGMはクラシックピアノでした。喫茶店のBGMはジャズが多いような気がしますが、私はクラシックピアノの方が落ち着いて好きなので、また来たいと思います。

共済病院のすぐ近くということで、病院に行く途中、帰る途中に立ち寄られるお客様もいらっしゃるとのことです。

【横須賀中央駅からのアクセス】(駅を背にして)米が浜入り口交差点まで歩いてきたら、交差点を共済病院の方に向かって歩いて5分くらいです。

◆関連ツイート

 

関連記事:昭和50年代生まれは演出されたレトロに戸惑う - Inside the gate

コンビニ惣菜のライン作業バイトで学んだこと 習慣が人を作る

 

コンビニのお惣菜包装ラインのバイト体験記 - Inside the gateという記事の続きです。

夏休みに2週間の短期バイトで、コンビニのお弁当・惣菜工場にもぐりこんだことがあります。そして2日で逃げ出しました。つらかった。やっぱり興味本位で潜り込む場所ではありませんよ。
私がこの2日間で学んだこと。それはここにいるおばさん達とうまくやっていくのはちょっと不幸くらいがいいのです。だってこの人達は他人が不幸だと安心できるのですから。 だけど「不幸なふり」なんてできないのです。ばれてしまうんですよ。
なぜなら幸せな人達が不幸なふりをしたところで、仕草や言動の端々に幸せな人ならではの習慣や心がけがにじみでてしまうのです。そしてそれは彼女達を苛立たせるのです。

http://www.flickr.com/photos/16877319@N07/3907220356

photo by Guwashi999


おばさんA:「ねえ、この間田中さん見かけたの・・・・I駅の近くで・・・」
おばさんB:「それで?」
おばさんA:「キャリーケース引いてたのよ。あんな暑い日に。それで大きなバッグも持ってた。あの人、もしかするとホームレスになっちゃったんじゃない?」

おばさんB:「ええ?そうなの?!」

こんな会話があちこちから聴こえて来るのです・・・。みんな人の不幸が嬉しくてしようがない。そして休憩時間になると、それぞれ皆食事を用意し、食後のお菓子を持ち寄ります。コンビニ惣菜バイトの現場の陰湿なおばさん社会をすいすい泳ぎたかったら、食後のお菓子は安さが命の大袋に限ります。「おかしのまちおか」などに行って買いましょう。間違えても茶屋のお菓子など出さないこと。確実にハブられるでしょう。


ほんと、コンビニ弁当・惣菜のライン作業は夏休みの短期バイトで留めておいた方がいいです。っていうか行くな。精神的にかなりきついです。時間の流れがあんなにも遅く感じられたのは、初めての経験でした。
単調作業の中に楽しみを見出し、創意工夫ができてしかも精神的に強い、あるいは相当鈍い人は大丈夫かもしれません。でもね、創意工夫しようという気持ちすら起きないと思いますよ。そのくらい鬱々としています。
どんどん便利になるコンビニエンスストアですが、そのビジネスを支えている最下層で働くことがいかに大変か身をもって知りました。たった二日間だけでしたけど、これを何年も続ける人はすごいと思います。特に夜勤。

夜勤を選ぶ人というのはやはりお金で色々苦労しているはずです。若干ではありますが、日勤よりも時給がよいので。
だけどお金に苦労する理由は、金切り声で怒鳴り続ける彼女達にもあると思いました。日々の習慣が人を作る、ということを目の当たりにしましたよ。幸せになる人の考え方、どんどん不幸になる人の考え方って絶対にあると思います。

 すぐ怒鳴ったり、負の要素しか含まない言葉を吐き続ける。人を見る時の目つき・・・・。
彼女達も最初からあんな風にぎすぎすしていなかったと思うのです。おそらく彼女達が育った環境も関係しているのでしょう。それにしてもあの人達はなんであんなにきついの?あの金切り声・・・もう二度と聞きたくないよー。彼女達にうまく取り入って可愛がられている世渡り上手でーす(でした)という方がこの記事を読んでいらっしゃったら是非コメント欄から声をお聞かせください(コメントは承認後公開となります)。

とにかく希望とかそういう明るいものがいっさいない環境。桐野夏生さん、あの世界の鬱々とした雰囲気をよく書ききったよなぁ。この小説に出てくる四人の女性達の一人だけが、お金がないゆえにお金に支配され続けていた人生から飛び出すことができた。OUT。その後彼女はどうなったのでしょう。

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コンビニのお惣菜包装ラインのバイト体験記


もう今から10年以上前になりますが、ある大手コンビニのお惣菜の加工ラインの短期バイトをしたことがあります。もともと二週間くらいのバイトだったと思いますが、2日で逃げ出しました。

まずひとことで言い表すと、そこには桐野夏生ワールドが広がっていました。

鬱々とした世界。暗さの理由は・・・

桐野氏の「OUT」という作品を読まれた方は多いと思います。そこに登場した四人の女性達は、経済的な苦しさから鬱々とした生活を送っている、コンビニ弁当の加工のライン作業をしている同僚達でした。彼女達のシフトは時給のいい夜勤。
桐野氏のこの作品を読んで「いつか絶対に私もこのバイトに潜入してやる!」と思っていたのです。自分も小説の中でこのシーンを書きたかったし、私みたいに作家として実績も認知度もない人間は取材でーすといって工場に入れてもらえるはずもありません。だったら自分で潜り込むしかない。
そこで自宅から車で20分ほどのところにある工場が、コンビニ弁当の製造・加工の短期バイトの募集をしていたので応募しました。

おばさん達の怒鳴り声が響く作業室

面接で「で、調理、加熱、加工とあるけど・・・・ふ~ん。加熱希望?本当に大丈夫?夏に加熱、軽く死ねますよ」みたいなことを言われ、じゃあ加工で、と深く考えずに答えました。もちろん私もOUTの世界を見るために夜勤希望。
出勤初日、加工ラインが数列ある工場のどこからともなくばばあの怒鳴り声が聞こえてきます。OUTで読んだどんづまり人生を送る中年女性のイメージが頭の中で膨らみました。そして社員さんに「じゃあマリアさんは●ラインに入ってくれる?」といわれました。
私はラッキーでした。なぜならそこは男性と若い女性が多いラインだったので、ばばあに怒鳴られることはなかったのです。だけどライン全体でばばあの数が多いというのは理にかなっているなと思いました。
といいますのも、自分がラインの中に入ってみて思ったのですが、完全に分業・流れ作業のためなかなかトイレに行けないのです。 ですから生理中の時なんてどうすんだろって思いましたよ。となると閉経済みの女性達でラインを固めれば途中で抜ける人も少ないから、ラインを止めなくても済むというわけです。

行けば行くほど楽になる。だけどその前にやめてしまう

ばばあがラインにいないからといって、何も言われないわけではありません。
私のように短期バイトで来ている人間は、何もかも初めてなのです。対して普段からラインに入っている人達は、惣菜ごとにどの食材が何グラムで位置はどこで、そしてどう手を動かしたらラインの流れについていけるかということをよくわかっていますし、体も慣れています。そんな人達から叱責を受けることは多々ありました。

「ツナが紫たまねぎの上に進出しすぎ!」

「茄子が乱れてる!」

ツナが進出・・・・・。
茄子が乱れてる・・・・・。

冷静に脳内で繰り返してみると笑いがこみ上げてきて、ああ、マスクをしていて助かったなぁと思いました。
だけど私にとっては新鮮で面白いことでも、彼らにとっては日常的なことにしかすぎません。またこの仕事はこなせばこなすほど楽になります。なぜなら各食材の分量や配置場所はとにかく「慣れて覚える」ことが大切で、頭も体も覚えてしまえば作業スピードも上がるのです。だけど慣れる前に辞める人が多いから会社側も困っているのでしょうね。

バイトや社員だけではなく、派遣社員もいるのですが、一度派遣されるともう二度と戻りたがらないスタッフがあまりに多いため、「いったい何がそんなに大変なんだろう」と派遣会社の営業社員が一度覆面で潜入したそうです。そして現場の状況を目の当たりにし、なぜコンビニのお惣菜・弁当の加工ラインが慢性的な人不足に悩むのか理解できたんですって。
金切り声で怒鳴るばばぁ達がいなくなればそれでいいのかというと、そうでもないんですよね。きっと彼女達がいなくなったらその下にいた人達が同じことを繰り返すと思います。

怒鳴ってばかりいるおばさん達。その怒りは本当に従業員に対する苛立ち?それとも自分の人生に対する怒りのやり場がないから従業員にやつあたりしているの?

で、怒鳴っているばばあ達なんですけど、なんでそんな言い方するのかね?と思うようなきつい言い方をするんですよね。そもそも怒鳴る必要ある?ってところで怒鳴るし。きぃーきぃーうるさい。
ああいう風に怒鳴るにも、エネルギー要るでしょ?って思うんですけど、多分彼女達は怒鳴ることでエネルギーをチャージしているのかな、と思いました。なんて不幸なんでしょう。彼女達が不幸であることは、眉間に刻まれた皺を見ていてもわかりました。
そしてその怒りは純粋に仕事に関するものなのか、それとも自分達の思うようにいかない人生に対する怒りなのか、どちらなのでしょう。
また、驚いたことに怒鳴られている人達は、誰一人としてすみません、とは言わないのです。またばばあのヒステリーが始まったって感じでしら~っとしているんですよ。いちいち受け止めていたらやっていられないのでしょうね。
30代くらいの女性でもヒステリックに怒鳴る人はいました。自分だって最初の頃は怒鳴られて辛かったただろうに、なんでいざベテランになったら自分も同じことを繰り返してしまうのだろうと、不思議でなりませんでした。でも彼女のメイクを見る限り、心に問題を抱えていそうな人だったので仕方のないことなのかもしれません。

というわけで、二日で逃げました

私の予想では、夜勤はまだましな方だと思います。日勤の方がおばさん率が高いと思うので、もっとうるさいはず。そのまだましな夜勤ですが、実は私は二日だけ出勤して辞めてしまいました・・・。だけど二日間の経験だけでも、取材としては十分すぎるくらいでした。そのくらいコンビニ弁当工場の闇は深い。
ベースで働きだしてからこの話を当時のフィリピン人の同僚にしたら、「私なんて一日でやめたよ。ばばぁが意地悪すぎる」と言っていたほどです。家族への送金のためならどんな仕事でも歯を食いしばって頑張るはずのフィリピン人が一日で辞めてしまうくらいきつい仕事が日本のコンビニの便利を支えているのです。

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工場夜景クルーズって聞いたことありませんか?あの工場地帯の光の魅力って、実は工場の内側の暗さとのコントラストなんじゃないかなって、実際に夜の工場で働いてみて思いました。
外側から見ると工場地帯独特の寂しく怪しい明るさがあるのでしょうけれど、その光を通じて乗客達は工場の中に広がる暗い世界を見ているのではないでしょうか。